PR

東洋医学で見る肩こりの原因

美容習慣

はじめに

現代社会において、肩こりは多くの人々を悩ませる症状の一つです。デスクワークやスマートフォンの長時間使用など、生活様式の変化により、その訴えはますます増加しています。西洋医学では主に筋肉の緊張や血行不良として捉えられることが多い肩こりですが、東洋医学では全く異なる視点からこの症状を理解します。

東洋医学は数千年の歴史を持ち、人体を一つの統合されたシステムとして捉える独特の医学体系です。肩こりもまた、単なる局所的な問題ではなく、身体全体のバランスの乱れから生じる症状として理解されます。本コラムでは、東洋医学の基本理論に基づいて、肩こりがどのように発生し、その根本原因は何なのかを詳しく解説していきます。

東洋医学の基本概念

気・血・水の理論

東洋医学において、人体を構成し、生命活動を維持する基本物質として「気・血・水」という概念があります。これらは身体中を絶え間なく循環し、各組織や器官に栄養を与え、老廃物を運び去る役割を果たしています。

「気」とは、生命エネルギーそのものを指します。目には見えませんが、身体のあらゆる機能を動かす原動力となるものです。呼吸や消化、体温調節など、すべての生理活動は気の働きによって成り立っています。気が不足したり、その流れが滞ったりすると、様々な症状が現れます。

「血」は、西洋医学でいう血液に近い概念ですが、単なる血液だけでなく、血液によって運ばれる栄養や潤いをも含む広い概念です。血は全身の組織に栄養を届け、精神活動を支える重要な役割を担っています。

「水」は、血液以外の体内の水分全般を指します。リンパ液や関節液、細胞間液など、身体を潤し、代謝活動を支える液体成分です。水の代謝が滞ると、むくみや痰などの症状が現れます。

肩こりは、この気・血・水の流れが肩や首の周辺で滞ることによって生じると考えられています。特に「気滞」「血瘀」と呼ばれる状態が、肩こりの主要な病態です。

経絡理論

東洋医学には「経絡」という独特の概念があります。経絡とは、気血が全身を巡るための通路であり、いわば身体のエネルギー回路とも言えるものです。全身には十四本の主要な経絡が走っており、それぞれが特定の臓腑と結びついています。

肩や首の周辺には、特に以下の経絡が関係しています。

胆経(たんけい): 側頭部から肩、体側を通って足の指先まで走る経絡です。胆経の流れが滞ると、肩から首にかけての側面にこりや痛みが生じやすくなります。ストレスや睡眠不足は胆経の働きを乱す主要因です。

膀胱経(ぼうこうけい): 頭頂部から背中の両側を通り、足の小指まで走る経絡です。背中や肩甲骨周辺のこりは、多くの場合この膀胱経の滞りと関係しています。膀胱経は身体の陽気を巡らせる重要な経絡であり、その機能低下は慢性的な疲労や冷えとも関連します。

小腸経(しょうちょうけい): 小指から腕の内側、肩甲骨を経て頬まで走る経絡です。肩甲骨周辺の痛みやこりに深く関与しています。心理的なストレスや消化器系の不調が小腸経に影響を及ぼすことがあります。

大腸経(だいちょうけい): 人差し指から腕、肩を通って鼻まで走る経絡です。肩の前面や首筋のこりと関係が深く、便秘などの消化器症状を伴うこともあります。

これらの経絡の流れが何らかの原因で滞ると、その経絡が通る部位に痛みやこり、違和感などの症状が現れます。肩こりの場合、どの経絡に問題があるかによって、こりを感じる場所や随伴症状が異なってきます。

五臓六腑の理論

東洋医学では、内臓を「五臓六腑」として分類し、それぞれが特定の機能を担っていると考えます。五臓とは肝・心・脾・肺・腎を指し、六腑とは胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦を指します。

これらの臓腑は、西洋医学の解剖学的な臓器とは必ずしも一致しません。東洋医学における臓腑は、その臓器が持つ機能系統全体を表す概念であり、関連する経絡や精神活動、感覚器官なども含む包括的なシステムです。

肩こりと特に関係が深いのは以下の臓です。

肝(かん): 気の流れを調節し、血を貯蔵する役割を持ちます。ストレスや怒りの感情は肝の機能を乱し、気の流れを滞らせます。肝の不調は、肩や首の側面、目の疲れなどの症状として現れやすくなります。

脾(ひ): 消化吸収を司り、気血を生成する源です。脾の働きが弱ると、十分な気血が作られず、筋肉や組織に栄養が届かなくなります。その結果、慢性的な疲労感とともに肩こりが生じます。

腎(じん): 生命エネルギーの根本である「腎精」を貯蔵し、成長や老化、生殖機能を司ります。加齢や過労によって腎の機能が衰えると、慢性的な疲労や腰痛とともに肩こりも生じやすくなります。

このように、東洋医学では肩こりを局所的な問題としてだけでなく、臓腑の機能や全身の状態と関連付けて理解します。

東洋医学から見た肩こりの主な原因

気滞(きたい)による肩こり

気滞とは、気の流れが滞っている状態を指します。気は本来、全身を滑らかに循環するべきものですが、様々な要因によってその流れが妨げられることがあります。

ストレスと気滞: 現代社会における最大の気滞の原因は、精神的ストレスです。東洋医学では、感情と臓腑の機能は密接に関連していると考えます。特に「肝」は気の流れを調節する役割を持っており、ストレスや抑うつ、怒りなどの感情によって肝の機能が乱れると、気の流れが滞ります。

気滞による肩こりの特徴は、こりの程度が日によって変動することです。ストレスの多い日には症状が強く、リラックスしている時には軽減します。また、気滞は張った感じや脹れた感じを伴うことが多く、肩が重だるく、首筋が張るような感覚があります。

気滞の随伴症状: 気滞による肩こりには、以下のような随伴症状がよく見られます。イライラしやすい、ため息が多い、胸や脇腹が張る感じがする、喉に何かつかえた感じがする、月経前に症状が悪化する、げっぷやおならが出やすいなどです。これらは気の流れが滞っていることを示す典型的なサインです。

対処法の視点: 気滞による肩こりに対しては、単に肩を揉むだけでは根本的な解決にはなりません。気の流れを整えるためには、ストレス管理や感情のコントロール、適度な運動による気の発散が重要です。深呼吸や軽い運動、趣味の時間を持つことなどが、気の流れを改善する助けとなります。

血瘀(けつお)による肩こり

血瘀とは、血の流れが滞り、局所的に停滞している状態を指します。血が滞ると、その部位への栄養供給が不十分になり、老廃物の排出も滞るため、痛みやこりが生じます。

血瘀の形成過程: 血瘀は、気滞が長期化することによって生じることが多くあります。気は血を動かす原動力であるため、気の流れが滞ると、やがて血の流れも悪くなります。また、外傷や打撲、長時間の同じ姿勢なども血瘀を引き起こす要因となります。

血瘀による肩こりの特徴は、痛みの性質が刺すような、あるいは固定された鋭い痛みであることです。こりの部位を押すと痛みが増し、温めてもあまり楽にならないことがあります。夜間に症状が悪化する傾向もあります。

血瘀の見極め方: 血瘀があるかどうかは、いくつかのサインから判断できます。舌の色が紫がかっている、舌に紫色の斑点がある、皮膚にあざができやすい、生理痛がひどく経血に塊が混じる、肩や首を押すと硬いしこりのようなものを触れるなどが、血瘀の存在を示唆します。

慢性化のリスク: 血瘀による肩こりは、放置すると慢性化しやすく、改善も時間がかかります。早期の対処が重要です。血流を改善するためには、適度な運動、温熱療法、血行を促進する食材の摂取などが有効です。

気血両虚(きけつりょうきょ)による肩こり

気血両虚とは、気と血の両方が不足している状態を指します。気血は筋肉や組織に栄養を与え、その機能を維持するために不可欠です。気血が不足すると、筋肉は適切な栄養を受け取れず、疲労しやすく、こりやすくなります。

虚証の肩こりの特徴: 気血両虚による肩こりは、いわゆる「虚証」タイプの肩こりです。このタイプの肩こりは、激しい痛みよりも、重だるさや疲労感が主体です。長時間立っていたり、疲れた時に症状が悪化します。また、肩を押すと気持ちよく感じることが多いのも特徴です。

気血不足の原因: 気血不足は、以下のような要因によって生じます。慢性的な疲労や過労、睡眠不足、栄養不足や偏った食生活、出産や大量出血、慢性疾患による消耗、加齢による気血生成能力の低下などです。

特に「脾」の機能が弱っている場合、食べ物から十分な気血を作り出せなくなり、気血両虚の状態に陥りやすくなります。消化不良、食欲不振、軟便などの症状を伴うことも多くあります。

随伴症状: 気血両虚による肩こりには、以下のような全身症状を伴うことが多いです。顔色が悪い、息切れしやすい、動悸がする、めまいや立ちくらみがする、爪が薄くて割れやすい、髪の毛が細くなる、生理の量が少ないなどです。

改善のアプローチ: このタイプの肩こりには、気血を補うことが最も重要です。栄養バランスの良い食事、十分な休息と睡眠、無理のない範囲での運動が基本となります。激しいマッサージや過度な運動は、かえって気を消耗させるため避けるべきです。

寒邪(かんじゃ)による肩こり

東洋医学では、外部から身体に侵入して病気を引き起こす要因を「外邪」と呼びます。その中でも「寒邪」は、肩こりの重要な原因の一つです。

寒邪の特性: 寒邪には「収引」と「凝滞」という特性があります。収引とは、収縮させる性質のことで、寒さに当たると血管や筋肉が収縮します。凝滞とは、流れを停滞させる性質のことで、寒邪によって気血の流れが悪くなります。

冬の寒い季節や、冷房の効いた部屋に長時間いること、薄着で肩や首を露出すること、冷たい飲食物の過剰摂取などが、寒邪の侵入を招きます。

寒邪による肩こりの特徴: 寒邪による肩こりは、冷えると症状が悪化し、温めると楽になるのが最大の特徴です。こりや痛みは固定的で、範囲が限局していることが多く、動かすと痛みが増すこともあります。

また、身体の「陽気」が不足している人は、寒邪の影響を受けやすくなります。陽気は身体を温める力であり、これが不足すると、外部の寒さから身体を守る力が弱くなります。

随伴症状: 寒邪による肩こりには、冷えの症状を伴います。手足の冷え、顔色が青白い、尿が透明で量が多い、温かいものを好む、寒がりなどの症状が見られます。

予防と対処: 寒邪による肩こりの予防には、身体を冷やさないことが何より重要です。肩や首を覆う服装、温かい飲食物の摂取、入浴やカイロなどによる温熱療法が効果的です。

湿邪(しつじゃ)による肩こり

湿邪とは、余分な水分や湿気による病理的な状態を指します。体内に湿邪が停滞すると、気血の流れが妨げられ、重だるい肩こりが生じます。

湿邪の形成: 湿邪は外部環境から侵入する場合と、体内で生成される場合があります。梅雨時や雨の日、湿度の高い環境に長時間いること、水辺や地下の仕事場などが外部からの湿邪の侵入を招きます。

体内で湿邪が生成される主な原因は、脾の機能低下です。脾は水分代謝を調節する役割を持っており、その機能が弱ると、体内に余分な水分が停滞し、湿邪となります。脂っこい食事、甘いもの、冷たいもの、生ものの過剰摂取は、脾の機能を低下させ、湿邪を生み出します。

湿邪による肩こりの特徴: 湿邪による肩こりは、重だるさが主体で、まるで重いものを背負っているような感覚があります。天候によって症状が変動し、雨の日や湿度の高い日に悪化します。朝起きた時に症状が強く、身体が重く感じられます。

随伴症状: 湿邪による肩こりには、以下のような症状を伴うことがあります。頭が重い、めまいがする、口の中が粘る、食欲がない、お腹が張る、軟便や下痢、むくみやすい、身体が重だるいなどです。舌を見ると、白く厚い苔が付着していることが多いです。

改善方法: 湿邪による肩こりの改善には、体内の余分な水分を排出し、脾の機能を高めることが重要です。消化の良い温かい食事、適度な運動による発汗、除湿された環境で過ごすことなどが効果的です。

肝陽上亢(かんようじょうこう)による肩こり

肝陽上亢とは、肝の陽気が過剰に上昇し、頭部に熱が停滞している状態を指します。これは主にストレスや過労、加齢によって生じます。

病態の形成: 長期的なストレスや怒りの感情は、肝の気を鬱結させます。鬱結した気は時間とともに熱に変化し、その熱が上方へ昇っていきます。また、加齢や過労によって腎の陰液が不足すると、相対的に肝の陽気が亢進し、上昇しやすくなります。

症状の特徴: 肝陽上亢による肩こりは、肩から首、後頭部にかけての張りや痛みとして現れます。頭痛を伴うことが多く、特にこめかみや側頭部、後頭部の痛みが特徴的です。目の充血、顔面紅潮、耳鳴りなどの上部の熱症状を伴います。

随伴症状: イライラしやすい、怒りっぽい、不眠、夢が多い、口が苦い、口が渇く、便秘などの症状がよく見られます。血圧が高めの人にも多く見られる病態です。

対処の考え方: このタイプの肩こりには、上昇した陽気を鎮め、肝の陰液を補うことが重要です。精神的な安定を図り、睡眠を十分に取ること、刺激の強い食べ物やアルコールを控えることなどが推奨されます。

生活習慣と肩こりの関係

姿勢と肩こり

東洋医学においても、姿勢は肩こりの重要な要因として認識されています。長時間の不良姿勢は、特定の経絡の流れを妨げ、気血の循環を阻害します。

デスクワークでの前かがみの姿勢は、胸部を圧迫し、肺経や心経の流れを妨げます。また、首を前に突き出す姿勢は、督脈や膀胱経の流れを阻害し、肩から首にかけてのこりを引き起こします。

スマートフォンを見る際の下向きの姿勢も、近年増加している肩こりの原因です。これは頸部に過度な負担をかけ、気血の流れを大きく妨げます。

飲食と肩こり

東洋医学では「医食同源」という考え方があり、日々の食事が健康に大きな影響を与えると考えます。肩こりと関連する飲食習慣には以下のようなものがあります。

冷たいものの過剰摂取: 冷たい飲み物や食べ物は、脾胃の陽気を損ない、気血の生成を妨げます。また、寒邪を体内に引き入れ、気血の流れを停滞させます。

脂っこいもの、甘いもの: これらは湿邪を生み出し、気血の流れを妨げます。特に脾の機能を低下させ、気血不足を招きやすくなります。

不規則な食事: 食事の時間が不規則だったり、欠食したりすることは、脾胃の機能を乱し、気血の生成を妨げます。

飲酒: 適量のアルコールは気血の流れを促進しますが、過度の飲酒は肝を傷つけ、湿熱を生み出します。

睡眠と肩こり

睡眠は、気血を養い、臓腑の機能を回復させる重要な時間です。睡眠不足は、特に肝血を消耗させ、気血両虚の状態を招きます。

東洋医学では、夜11時から午前3時までの時間帯を「肝胆の時間」として重視します。この時間帯に深い睡眠をとることで、肝血が充実し、翌日の気血の流れがスムーズになります。

また、睡眠の質も重要です。夢が多い、眠りが浅い、夜中に何度も目が覚めるなどの睡眠障害は、心や肝の不調を示しており、これらは肩こりと密接に関連しています。

運動と肩こり

適度な運動は、気血の流れを促進し、経絡の通りを良くします。特に全身を動かす運動は、滞った気を発散させ、血行を改善します。

しかし、過度な運動は気を消耗させ、かえって肩こりを悪化させることがあります。特に気血両虚タイプの人は、激しい運動を避け、ゆっくりとしたペースの運動を選ぶべきです。

東洋医学では、太極拳や気功などの緩やかな運動が推奨されます。これらは呼吸と動作を調和させ、気の流れを整える効果があります。

感情と肩こり

東洋医学では、感情と身体の状態は密接に関連していると考えます。特に以下の感情が肩こりと関係しています。

怒り・イライラ: 肝の気を鬱結させ、気滞を引き起こします。

憂い・思い悩み: 脾の機能を低下させ、気血の生成を妨げます。

恐れ・不安: 腎の気を消耗させ、全身の気の流れを乱します。

悲しみ: 肺の気を消耗させ、胸部の気の流れを停滞させます。

感情のコントロールと適切な発散は、肩こりの予防と改善に不可欠です。

季節と肩こりの関係

東洋医学では、季節の変化が身体に大きな影響を与えると考えます。それぞれの季節に特有の肩こりのパターンがあります。

: 肝の季節とされ、気の流れが活発になりますが、同時に気滞も生じやすくなります。春の肩こりは、ストレスや精神的な緊張と関連することが多くあります。

: 心の季節とされ、陽気が盛んになります。暑さによる発汗で気を消耗しやすく、また冷房による寒邪の侵入も肩こりの原因となります。

梅雨: 湿邪が盛んな時期です。湿邪による重だるい肩こりが増加します。

: 肺の季節とされ、乾燥が特徴です。乾燥は陰液を消耗させ、筋肉の柔軟性を低下させます。

: 腎の季節とされ、寒邪が盛んになります。冷えによる肩こりが増加し、陽気の不足している人は特に症状が強くなります。

季節に応じた養生法を実践することで、肩こりの予防と改善につながります。

まとめ

東洋医学から見た肩こりは、単なる筋肉の緊張ではなく、気血の流れの滞り、臓腑の機能失調、外邪の侵入など、様々な要因が複雑に絡み合って生じる症状です。

その原因は、気滞、血瘀、気血両虚、寒邪、湿邪、肝陽上亢など、個人の体質や生活習慣、環境によって異なります。同じ「肩こり」という症状でも、その背景にある病態は人それぞれであり、だからこそ一人ひとりに合わせた対処法が必要となります。

東洋医学の視点で自分の肩こりを理解することは、その根本原因に気づき、生活習慣を見直すきっかけとなります。ストレス管理、適切な飲食、十分な睡眠、適度な運動、そして身体を冷やさないことなど、日々の養生が肩こりの予防と改善に大きな役割を果たします。

肩こりは身体からのメッセージです。それを単に抑え込むのではなく、身体全体のバランスを整えることで、根本から改善していくことができるのです。東洋医学の智慧を日常生活に取り入れ、健やかな身体を取り戻していただければ幸いです。

タイトルとURLをコピーしました