はじめに
近年、美容医療の分野において、メスを使わない「切らないリフトアップ」として注目を集めているのが糸を使った施術です。中でも「糸リフト」と「ショッピングスレッド」は、多くの方が関心を寄せる代表的な治療法となっています。しかし、これらの施術について正確な情報を持っている方は意外と少なく、「どちらも同じようなもの」と誤解されることも珍しくありません。
本コラムでは、糸リフトとショッピングスレッドの根本的な違いから、それぞれのメリット・デメリット、適応症例、費用、ダウンタイムまで、詳細に解説していきます。美容医療を検討されている方が、自分に最適な治療法を選択できるよう、専門的な知識をわかりやすくお伝えします。
糸リフトとは
糸リフトの基本概念
糸リフト(Thread Lift)は、特殊な糸を皮下組織に挿入し、物理的にたるんだ組織を引き上げることでリフトアップ効果を得る美容医療技術です。従来の外科的フェイスリフトとは異なり、大きな切開を必要とせず、針穴程度の小さな傷のみで施術が可能なため、「切らないフェイスリフト」とも呼ばれています。
使用される糸の種類
糸リフトで使用される糸は主に以下の種類に分類されます:
溶ける糸(吸収糸)
- PDO(ポリジオキサノン)
- PCL(ポリカプロラクトン)
- PLA(ポリ乳酸)
- PLLA(ポリL乳酸)
溶けない糸(非吸収糸)
- シリコン製
- ポリプロピレン製
現在の主流は安全性の観点から溶ける糸となっており、体内で自然に分解・吸収されるため、長期的な異物反応のリスクが低減されています。
糸リフトのメカニズム
糸リフトの効果は二つのメカニズムにより実現されます。一つ目は「即効性のリフトアップ効果」で、糸に付いているコグ(とげ)やコーン(円錐状の突起)が組織を物理的に持ち上げることによるものです。二つ目は「遅発性の引き締め効果」で、糸の周囲にコラーゲンが新生されることで、徐々に肌質の改善とタイトニング効果が現れます。
ショッピングスレッドとは
ショッピングスレッドの基本概念
ショッピングスレッド(Shopping Thread)は、韓国発祥の美容医療技術で、細い糸を皮下組織に格子状に挿入することで、肌の引き締めとリフトアップ効果を得る施術です。「ショッピング」という名前の由来は、施術後すぐに日常生活に戻れること、つまり「買い物に行けるほど手軽」という意味から付けられました。
使用される糸の特徴
ショッピングスレッドで使用される糸は、主にPDO(ポリジオキサノン)という医療用の溶ける糸です。この糸は以下の特徴を持ちます:
- 直径0.1mm程度の極細糸
- 表面が滑らか(コグやコーンなし)
- 6-8ヶ月程度で体内に吸収
- 医療用縫合糸として長年使用されている安全な素材
ショッピングスレッドのメカニズム
ショッピングスレッドの効果は主に「コラーゲン新生による肌質改善」に依存しています。挿入された糸が異物として認識されることで、周囲に新しいコラーゲンが生成され、結果として肌のハリや弾力性が向上します。物理的な引き上げ効果は限定的で、どちらかというと肌質改善を主目的とした施術といえます。
糸リフトとショッピングスレッドの根本的違い
施術目的の違い
糸リフト
- 主目的:たるみの改善、輪郭のシャープ化
- 副次効果:肌質改善、小じわの軽減
ショッピングスレッド
- 主目的:肌質改善、肌のハリ・弾力向上
- 副次効果:軽度のリフトアップ
使用する糸の構造的違い
糸リフト
- コグ(とげ)やコーン付きの糸を使用
- 太さは0.2-0.3mm程度
- 組織をしっかりと把持する構造
ショッピングスレッド
- 表面が滑らかな極細糸を使用
- 太さは0.1mm程度
- 組織への刺激は最小限
挿入方法の違い
糸リフト
- 数本から十数本程度の糸を戦略的に配置
- 深い層(SMAS層付近)への挿入
- 特定のベクトル(方向)を重視した挿入
ショッピングスレッド
- 30-100本程度の糸を格子状に配置
- 浅い層(真皮から皮下浅層)への挿入
- 全体的な密度を重視した挿入
糸リフトのメリット
即効性の高いリフトアップ効果
糸リフトの最大の特徴は、施術直後から明確なリフトアップ効果を実感できることです。コグやコーン付きの糸が組織をしっかりと把持し、物理的に引き上げるため、たるみの改善効果は施術後すぐに現れます。特にフェイスライン、マリオネットライン、ほうれい線の改善において優れた効果を発揮します。
長期間持続する効果
糸リフトの効果持続期間は使用する糸の種類や個人差によって異なりますが、一般的に1-2年程度とされています。溶ける糸を使用した場合でも、糸が溶けた後もコラーゲン新生による引き締め効果が持続するため、比較的長期間にわたって効果を維持できます。
外科的手術に比べて低侵襲
従来のフェイスリフト手術と比較して、糸リフトは大幅に侵襲性が低い治療法です。皮膚切開は針穴程度で済み、全身麻酔も不要なため、身体への負担が大幅に軽減されます。これにより、手術に抵抗がある方でも比較的気軽に受けられる治療となっています。
カスタマイズ性の高さ
糸リフトは、患者の顔の形状やたるみの程度、希望する仕上がりに応じて、糸の種類、挿入位置、挿入角度を細かく調整できます。このカスタマイズ性により、個人のニーズに合わせた最適な治療プランを立てることが可能です。
糸リフトのデメリット
施術時の痛みと腫れ
糸リフトは局所麻酔下で行われますが、太い糸を深い層に挿入するため、施術中に痛みを感じることがあります。また、施術後は腫れや内出血が生じることが多く、1-2週間程度のダウンタイムが必要です。
表情の違和感や引きつれ
施術直後から数週間は、糸による組織の引き上げにより表情に違和感を感じることがあります。特に笑顔を作る際の頬の動きや、口角の上がり方に変化が現れることがあり、自然な表情に戻るまでに時間を要する場合があります。
合併症のリスク
糸リフトには以下のような合併症のリスクが伴います:
- 感染症
- 糸の露出や突出
- 左右非対称
- 神経損傷による一時的な麻痺
- アレルギー反応
費用の高さ
糸リフトは保険適用外の自由診療となるため、費用が高額になりがちです。使用する糸の種類や本数、クリニックによって大きく異なりますが、一般的に30-100万円程度の費用がかかります。
ショッピングスレッドのメリット
自然な仕上がり
ショッピングスレッドは極細糸を多数挿入することで、全体的に自然な肌質改善とマイルドなリフトアップ効果を得られます。急激な変化ではなく、徐々に肌が若返っていくような自然な仕上がりが特徴です。
ダウンタイムの短さ
「ショッピング」の名前の通り、施術後すぐに日常生活に戻れるのが大きなメリットです。腫れや内出血も最小限で、多くの場合翌日からメイクも可能です。社会生活への影響を最小限に抑えながら美容治療を受けたい方に適しています。
肌質改善効果
ショッピングスレッドの主な効果は肌質改善です。コラーゲン新生により、肌のハリ、弾力、キメが改善され、毛穴の目立ちも軽減されます。この効果は徐々に現れ、施術後2-3ヶ月でピークに達します。
比較的リーズナブルな価格
糸リフトと比較して、ショッピングスレッドは比較的リーズナブルな価格設定となっています。一般的に10-30万円程度で施術を受けることができ、美容医療の入門的な位置づけとして人気があります。
安全性の高さ
使用する糸が極細で表面が滑らかなため、組織へのダメージが最小限に抑えられます。また、浅い層への挿入となるため、神経や血管を損傷するリスクも低く、比較的安全性の高い施術といえます。
ショッピングスレッドのデメリット
限定的なリフトアップ効果
ショッピングスレッドの物理的なリフトアップ効果は限定的です。重度のたるみや明確な輪郭改善を求める方には効果が不十分である可能性があります。期待値の設定が重要な施術といえます。
効果の持続期間が短い
ショッピングスレッドの効果持続期間は6ヶ月-1年程度と、糸リフトに比べて短めです。継続的な効果を維持するためには、定期的な施術が必要となり、長期的には費用がかさむ可能性があります。
施術直後の効果が分かりにくい
コラーゲン新生による効果がメインのため、施術直後には明確な変化を感じにくいことがあります。効果のピークは2-3ヶ月後となるため、即効性を求める方には向いていません。
施術者の技術に依存
多数の糸を均等に挿入する必要があるため、施術者の技術や経験に結果が大きく左右されます。不均等な挿入により、部分的な凹凸や左右非対称が生じるリスクがあります。
適応症例と選択基準
糸リフトが適している方
以下のような症状や希望を持つ方に糸リフトが適しています:
- 明確なたるみがある方(頬、フェイスライン、首など)
- ほうれい線やマリオネットラインが深い方
- 輪郭をシャープにしたい方
- 即効性を重視する方
- 1回の施術で長期間の効果を求める方
- 外科手術は避けたいがしっかりとした効果を求める方
ショッピングスレッドが適している方
以下のような症状や希望を持つ方にショッピングスレッドが適しています:
- 肌のハリや弾力の低下が気になる方
- 軽度のたるみがある方
- 毛穴の開きが気になる方
- 自然な仕上がりを重視する方
- ダウンタイムを最小限に抑えたい方
- 美容医療初心者の方
- 定期的なメンテナンスを厭わない方
費用比較と治療計画
糸リフトの費用
糸リフトの費用は使用する糸の種類、本数、クリニックによって大きく異なります:
- PDO糸リフト:20-60万円
- PCL糸リフト:40-80万円
- PLA糸リフト:50-100万円
初回施術から1-2年後に追加施術が必要となる場合があります。
ショッピングスレッドの費用
ショッピングスレッドの費用は比較的リーズナブルです:
- 顔全体:15-30万円
- 部分的:5-15万円
6ヶ月-1年ごとのメンテナンス施術が推奨されます。
長期的な費用対効果
5年間の総費用を比較した場合:
糸リフト
- 初回:60万円
- 2年後追加:40万円
- 4年後追加:40万円
- 合計:140万円
ショッピングスレッド
- 年1回施術:20万円 × 5年 = 100万円
長期的な費用対効果は個人の価値観や求める効果によって判断が分かれるところです。
施術の流れとアフターケア
糸リフトの施術プロセス
- カウンセリング(60-90分)
- 詳細な診察と治療計画の立案
- 糸の種類と挿入位置の決定
- リスクと効果の説明
- 施術当日(60-120分)
- 局所麻酔
- 挿入ポイントのマーキング
- 糸の挿入と位置調整
- 止血と創部処置
- アフターケア
- 1週間後検診
- 1ヶ月後検診
- 必要に応じて追加調整
ショッピングスレッドの施術プロセス
- カウンセリング(30-60分)
- 肌状態の診察
- 挿入範囲の決定
- 効果と経過の説明
- 施術当日(30-60分)
- 表面麻酔
- 格子状の挿入パターンでマーキング
- 細い糸を多数挿入
- 冷却と鎮静処置
- アフターケア
- 施術後の注意事項説明
- 2週間後経過確認
- 3ヶ月後効果判定
注意点とリスク管理
施術前の注意点
両施術共通の注意点:
- 抗凝固薬の服用中止
- アレルギー歴の確認
- 妊娠・授乳期は施術不可
- 感染症がある場合は施術延期
- ケロイド体質の方は慎重検討
施術後の注意点
糸リフト後
- 1週間は激しい運動を避ける
- 大きく口を開ける動作を控える
- うつ伏せで寝ることを避ける
- マッサージは1ヶ月間禁止
ショッピングスレッド後
- 施術当日は洗顔を控える
- 3日間はサウナや入浴を避ける
- 1週間はマッサージを控える
- 刺激の強いスキンケアは避ける
最新のトレンドと技術進歩
新しい糸素材の開発
近年、より安全で効果的な糸素材の開発が進んでいます:
- ハイブリッド糸:複数の素材を組み合わせた糸
- 薬剤含有糸:美容成分を含有した機能性糸
- 生体適合性向上糸:アレルギーリスクを極限まで下げた糸
施術技術の向上
技術面でも以下のような進歩が見られます:
- 3D画像診断:より精密な治療計画の立案
- 超音波ガイド:安全性の向上
- 組み合わせ治療:他の美容医療との併用
個別化医療への移行
患者一人ひとりの顔の構造、肌質、ライフスタイルに合わせたオーダーメイド治療が主流となりつつあります。
結論と選択のガイドライン
糸リフトとショッピングスレッドは、どちらも「切らないリフトアップ」という点では共通していますが、その目的、方法、効果は大きく異なります。
糸リフトを選ぶべき方
- 明確なたるみの改善を求める
- 1回の施術で長期間の効果を得たい
- 多少のダウンタイムは許容できる
- しっかりとした変化を実感したい
ショッピングスレッドを選ぶべき方
- 肌質改善を主目的とする
- 自然な変化を求める
- ダウンタイムを最小限にしたい
- 美容医療初心者で段階的に効果を実感したい
重要なのは、自分の症状、希望する効果、ライフスタイル、予算を総合的に考慮して選択することです。また、どちらの施術においても、経験豊富な医師による適切な診断と技術が結果を大きく左右するため、クリニック選びも慎重に行う必要があります。
美容医療は医学的な治療行為であり、リスクも伴います。十分な情報収集と専門医との相談を経て、最適な治療選択をされることをお勧めします。
本コラムは一般的な情報提供を目的としており、個別の医学的助言に代わるものではありません。実際の治療については必ず医療機関で専門医にご相談ください。